新型コロナウイルス感染症に罹患すると、回復後に後遺症が出ることがあります。自分や家族に罹患歴があり、後遺症への不安を感じている方は多いのではないでしょうか。
新型コロナウイルス感染症の後遺症はいくつかの事例が報告されています。後遺症が重い場合、日常生活に支障をきたすケースも少なくありません。
今回は新型コロナウイルス感染症の後遺症について、発症割合や主な症状などを解説します。後遺症かどうかを知るための相談先も紹介しているため、ぜひご一読ください。
目次
1. 新型コロナウイルス感染症の後遺症とは?
新型コロナウイルス感染症の後遺症とは、新型コロナウイルス感染症に罹患・回復した後に見られる特定の症状のことです。
WHO(世界保健機関)は、新型コロナウイルス感染症における後遺症(罹患後症状)を下記の通りに定義しています。
新型コロナウイルスに罹患した人にみられ、少なくとも2カ月以上持続し、また、他の疾患による症状として説明がつかないもの(通常はCOVID-19の発症から3カ月経った時点にもみられる。) |
(引用:東京都福祉保健局「後遺症」/https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/corona_portal/link/kouisyou.html 引用日2023/06/07)
新型コロナウイルス感染症の後遺症は、原因やメカニズムで未だに不明な点が多く、2023年現在は国内外の研究機関などで研究調査が続けられている状況です。
(出典:東京都福祉保健局「後遺症」/https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/corona_portal/link/kouisyou.html)
(出典:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(第2.0版)」/https://www.mhlw.go.jp/content/000952747.pdf)
1-1. 新型コロナウイルス感染症による後遺症の発症割合
新型コロナウイルス感染症の後遺症は、罹患したすべての方が発症するわけではありません。
後遺症の発症割合については、海外での報告に基づく系統的レビューが行われています。
まず、45の報告(計9,751例)の系統的レビューでは、診断後の2か月、もしくは退院等から1か月が経過した患者の72.5%が、何らかの症状を訴えていました。
また、57の報告(計25万例)の系統的レビューでは、診断・退院後の6か月かそれ以上が経過した患者の54%が、何らかの症状を有していたとされています。
(出典:東京都福祉保健局「後遺症」/https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/corona_portal/link/kouisyou.html)
新型コロナウイルス感染症による後遺症の発症割合は、50%を超える可能性があると言えます。
1-2. 後遺症の発症と年齢・既往歴・重症度の関係性
都立病院のコロナ後遺症相談窓口に寄せられた相談データから、後遺症の発症と年齢・既往歴・重症度の関係性を解説します。
なお、紹介するデータはオミクロン株における後遺症のものです。
【年齢】
10代 | 102人(5%) |
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20代 | 344人(17%) |
30代 | 354人(17%) |
40代 | 461人(23%) |
50代 | 312人(15%) |
60代 | 94人(5%) |
70代以上 | 90人(4%) |
未回答 | 258人(13%) |
20代~50代の割合が多いものの、10代や60代・70代以上の方も後遺症を発症しています。
【既往歴】
何らかの既往歴あり | 522人(26%) |
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既往歴なし | 1,517人(74%) |
後遺症を発症した方の多くは、既往歴がない方です。
【重症度】
軽症以下 | 1,974人(97%) |
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中等度以上 | 65人(3%) |
コロナ発症時の重症度が軽症以下の方でも、後遺症を発症しています
総括すると、年齢・既往歴・重症度を問わず、罹患した方は誰でも後遺症の発症リスクがあると言えます。
(出典:東京都福祉保健局「後遺症」/https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/corona_portal/link/kouisyou.html)
2. 新型コロナウイルス感染症における後遺症の主な種類
新型コロナウイルス感染症の後遺症には、いくつかの種類があります。主な症状の種類は、下記の4つです。
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ここからは、それぞれの種類について具体的な症状や、発症しやすい時期・改善が見られた時期などを解説します。
2-1. 呼吸器症状
後遺症の呼吸器症状では、下記のような症状が見られます。
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呼吸器症状の中でも、特に頻度の高い症状が「呼吸困難」「息苦しさ」「せき」です。
中等度以上の日本人を対象に行われた後遺症の実態調査によると、退院3か月後では呼吸困難感の症状が30.2%の方に認められました。せきの症状についても、退院3か月後で20%近くの方に認められています。
しかし、退院6か月後になると、呼吸困難感とせきの症状が認められる方は3か月時点の半分以下となっています。退院12か月後には呼吸困難感が6.0%、せきが5.0%にまで低減しました。
後遺症の呼吸器症状は、時間経過とともに改善が見られる傾向にあると言えます。
(出典:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(第2.0版)」/https://www.mhlw.go.jp/content/000952747.pdf)
2-2. 全身症状
後遺症の全身症状とは、主に下記のような症状のことです。
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全身症状の中でも、特に頻度の高い症状が「筋力低下」「倦怠感」です。
中等度以上の日本人を対象に行われた後遺症の実態調査では、退院3か月後に筋力低下の症状が50.1%の方に認められました。筋力低下の症状は時間経過とともに改善する傾向が見られるものの、12か月後も9.3%の方に症状が認められており、症状の残存が懸念されます。
倦怠感については、退院3か月後に25.6%の方に認められるものの、12か月後には4.9%にまで低減しています。しかし、後遺症の倦怠感は持続・悪化し得ると言われており、注意が必要です。
(出典:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(第2.0版)」/https://www.mhlw.go.jp/content/000952747.pdf)
2-3. 精神・神経症状
後遺症の精神・神経症状では、下記のような症状が報告されています。
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中等度以上の日本人を対象に行われた後遺症の実態調査では、退院3か月後で睡眠障害の症状は20%以上、思考力低下は15%以上の方に認められました。2つの症状のうち、思考力低下については退院12か月後に5.3%まで低減しています。
一方で、睡眠障害の症状については退院6か月後で10%程度に低減したのち、12か月後に至っても10%程度で留まっていました。睡眠障害は、他種類の後遺症によっても引き起こされる可能性があり、改善が難しい症状であると言えます。
(出典:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(第2.0版)」/https://www.mhlw.go.jp/content/000952747.pdf)
2-4. 消化器系・その他症状
後遺症の消化器系・その他症状は、主に下記のような症状です。
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特に、「味覚障害」「嗅覚障害」の2つは新型コロナウイルス感染症の特徴的な症状と言われており、後遺症としても症状が持続することがあります。
後遺症における味覚障害・嗅覚障害は、多くのケースで早期に改善が見られる点が特徴です。
しかし、数%の患者は回復から数か月、あるいは1年以上にわたって症状が持続しています。味覚障害・嗅覚障害の後遺症についての研究によると、6か月後に味覚障害を認めた例は6%、嗅覚障害を認めた例は12%であり、1年後の残存例はそれぞれ4%・7%でした。
異味症や異嗅症が認められるケースもあり、味覚障害・嗅覚障害は注意すべき症状と言えます。
(出典:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(第2.0版)」/https://www.mhlw.go.jp/content/000952747.pdf)
3. 新型コロナ後遺症を克服するためには
新型コロナウイルス感染症の後遺症は、時間の経過とともに自然と改善するケースが多い点が特徴です。症状改善の過程では、症状ごとの「対症療法」や「リハビリテーション」が実施されることもあります。
対症療法とは、あらわれた症状に応じて行う治療法のことです。呼吸器症状の呼吸困難に対して行われる「在宅酸素療法」や、嗅覚障害に対する「点鼻薬や内服薬の処方」が対症療法の例です。対症療法は症状の根本的な治療ではなく、あらわれた症状を和らげたり改善したりすることを目的として行われます。
もう1つの後遺症のリハビリテーションは、専門家の意見をベースに、いくつかのガイドラインなども参考にして行われるものです。主に下記の症状が、リハビリテーションの実施対象となります。
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リハビリテーションには運動療法や日常生活指導があります。運動療法の例としては「歩行・ジョギング」「呼吸練習」「ストレッチ」「下肢筋力増強」などがあり、実施者の症状に合わせて行われます。
後遺症の改善には対症療法やリハビリテーションが効果的であるとされているものの、明確な治療法は確立されていません。場合によっては、後遺症の症状が数か月以上続く可能性もあります。
4. 「新型コロナの後遺症かも」と思ったときの相談先
自分や家族が「新型コロナウイルス感染症の後遺症かもしれない」と思ったときは、まずはかかりつけ医や身近な医療機関に相談しましょう。呼吸器症状がある場合は内科、精神・神経症状がある場合は心療内科というように、症状に合った医療機関を受診すると後遺症の診断や治療を受けられます。
また、かかりつけ医や身近な医療機関では対応が難しい場合は、自治体に相談することもおすすめです。
自治体によっては新型コロナウイルス感染症関連の相談窓口や、後遺症相談窓口を開設している場合があります。自治体の相談窓口を利用することで、後遺症の診療ができる医療機関を教えてもらえます。
まとめ
新型コロナウイルス感染症に罹患した場合は、回復後に後遺症があらわれるケースがあります。
呼吸困難・せきなどの「呼吸器症状」、筋力低下・倦怠感がある「全身症状」、「精神・神経症状」や「消化器系・その他症状」が主な症状です。後遺症は時間経過によって自然と改善する傾向があり、対症療法やリハビリテーションによって改善を早められる可能性もあります。
「後遺症の症状が出たかもしれない」と思ったときは、紹介した相談先を利用しましょう。万が一に備えて、保険や共済に加入しておくこともおすすめです。