「ゆらぎ世代」とも呼ばれる40代後半~50代ごろの女性は、心身のさまざまなマイナートラブルを感じることが少なくありません。ゆらぎ世代特有のホルモンバランスの変化に仕事や家庭などのストレスが加わると、更年期障害のリスクが上がります。
更年期を少しでも快適に乗り切るためには、自分の心身の状態をきちんと知って早めに対処することが大切です。この記事では更年期障害が起こるメカニズムや更年期障害になりやすい人の特徴、そして更年期障害の主な治療法などについて解説します。
目次
1. 更年期障害とは?
更年期障害とは、次のA~Cをすべて満たす症状の総称です。
更年期特有のホルモンバランスの乱れによって起こる更年期症状は、女性なら誰でも経験しうるものです。しかし症状の内容や程度は個人差が大きく、症状が悪化して仕事や日常生活に支障が出た状態や病院での治療を要する状態を更年期障害と呼びます。
1-1. 更年期障害が起こる原因・しくみ
卵巣の活動性が低下して1年以上月経が停止した状態を、閉経と呼びます。日本人女性の平均閉経年齢は50.5歳ですが、実際に閉経を迎える年齢は40代前半から50代後半ごろまでさまざまです。卵巣機能が低下して女性ホルモンの分泌量が減ると女性ホルモンの分泌をつかさどる脳の視床下部が混乱し、同じく視床下部で制御されている自律神経などにも影響が出ます。そのため、更年期症状か自律神経失調症か区別しにくいこともしばしばです。
加えて、更年期の女性は子どもの進学・就職や夫の定年退職、親の介護などでライフステージが変わったり職場や家庭で重要な役割を任されたりすることが少なくありません。ホルモンバランスが乱れた状態で環境変化によるストレスや加齢による疲労などを感じると、更年期障害が悪化しやすくなります。
2. 更年期障害の主な症状
更年期障害の症状は千差万別であり、日によって症状が変わったり複数の症状が同時に現れたりすることも珍しくありません。また、以前からあった症状が更年期になって悪化することもしばしばです。
ここでは、更年期障害として起こりやすい諸症状およびそれらの原因について解説します。
2-1. 血管運動神経系の症状
- ほてり・のぼせ・発汗(ホットフラッシュ)
暑さや緊張を感じていないにも関わらず頭や顔などに熱を感じたり汗を大量にかいたりする症状です。これらの症状はホットフラッシュとも呼ばれ、自律神経の乱れによって血管の拡張や収縮をうまくコントロールできなくなることで起こります。
- 冷え・むくみ
血行が悪くなることで上半身は熱いのに下半身が冷たい「冷えのぼせ」やむくみを感じたり、冷え性が悪化したりすることも少なくありません。
- 動悸・息切れ
加齢や運動不足などで運動能力が低下すると、動悸や息切れを感じやすくなります。しかし、自律神経が乱れると運動していないのに動悸や息切れを感じることもしばしばです。
2-2. 身体的な症状
- めまい
めまいの感じ方は「ぐるぐる回る」「ふらふらする」「気が遠くなる」などさまざまであり、吐き気などを併発することもあります。更年期におけるめまいの原因は、自律神経の乱れや加齢による感覚器官の機能低下などさまざまです。
- 頭痛
更年期症状としての頭痛は、頭の片側や両側がズキズキ痛む片頭痛と頭全体が締め付けられるように痛む緊張型頭痛の2種類です。女性ホルモンの一種「エストロゲン」の減少や、血流不足などが頭痛の引き金になると考えられています。
- 肩こり・腰痛・背中の痛み
主な原因は、筋肉のこわばりや骨への負担による血行の悪化などです。更年期になると、加齢による筋力低下やストレスなどで症状が悪化しやすくなります。
- 手指などの関節の痛み・しびれ・変形
関節の骨に結節(こぶ)ができ、腫れや痛みなどが起こります。原因ははっきりしていないものの、更年期や産後の女性に多いことから女性ホルモンの減少との関連性が指摘されています。
2-3. 精神的な症状
- イライラ・情緒不安定・気分の落ち込み・無気力(抑うつ)
エストロゲンの減少によって神経伝達物質の一種「セロトニン」が不足すると、感情のコントロールがうまくいかなくなります。更年期の精神症状として有名なイライラや気分の落ち込みなどの多くは、セロトニン不足によるものです。また、更年期障害としての抑うつにライフイベントの変化などによるストレスが加わるとうつ病を発症する恐れもあります。
- 不眠
就寝後寝付きにくい入眠障害、起床時間より早く目が覚める早朝覚醒、夜中に目が覚める中途覚醒、そして睡眠時間は十分でもぐっすり眠れない熟眠障害の4種類に分かれます。更年期の不眠の最たる原因は自律神経の乱れですが、ホットフラッシュによる寝汗の不快感やストレスなどで睡眠が妨げられて不眠につながることも少なくありません。
2-4. その他の症状
- 消化器系の症状
自律神経の乱れによって胃腸の働きが妨げられると、胃もたれや下痢、便秘などが起こりやすくなります。また、加齢による腹筋の筋力低下や食欲不振などが便秘の原因となることも少なくありません。
- 婦人科系の症状
正常な月経周期は25~38日、1回当たりの月経の日数は3~7日ですが、閉経前は月経の頻度や日数が不安定になります。また、女性ホルモンの減少や膣の機能低下などにより性交痛が起こることもしばしばです。
- 泌尿器系の症状
膀胱や尿道などを支える骨盤底筋群が緩むと、尿失禁の原因となります。出産や加齢などによる筋力低下だけでなく、女性ホルモンの減少も尿失禁の一因です。
- 分泌系の症状
女性ホルモンの減少による粘膜の乾燥や、自律神経の乱れによって唾液の量を調整しにくくなることなどが原因で、口内やのどが乾きやすくなります。また、ホットフラッシュによる多汗ものどの渇きの一因です。
3. 更年期障害になりやすい人の特徴
更年期障害は、すべての女性に訪れるものではありません。とは言え、更年期障害になりやすい人となりにくい人がいることも事実です。基本的に、次の項目に当てはまる人ほど更年期障害のリスクが高いと考えられます。
このような人は年齢や性別に関わらずストレスを抱えやすく、ホルモンバランスが崩れやすい更年期に多くのストレスを感じることで更年期障害が起こりやすくなります。また男性と比べて女性のライフスタイルは環境の変化に左右されやすく、そのストレスが更年期障害の引き金となることもしばしばです。
更年期障害を防ぐためには、なるべくストレスを抱えないライフスタイルづくりが欠かせません。何でも完璧にこなそうとせず周囲の人へ早めに助けを求めることはもちろん、ストレス解消の手段を1つでも多く持っておくこともおすすめです。
4. 更年期障害の主な治療法
更年期障害の主な治療法は、次の通りです。
- ホルモン補充療法(HRT)
減少した女性ホルモンを飲み薬や塗り薬、貼り薬などで補い、ホルモンバランスを整えます。子宮がある人にエストロゲンのみを投与すると子宮体がんのリスクが上がるため、がんのリスクを抑える黄体ホルモン製剤の併用が不可欠です。一方、手術などで子宮を摘出した人にはエストロゲンのみを投与します。
- 漢方薬での治療
心疾患などの影響でHRTを使用できない場合や症状が多岐にわたる場合は、漢方薬を用いることもあります。症状そのものに直接作用する西洋薬に対し、漢方薬は生薬の力で免疫力を高めて体全体のバランスを整えることで症状をやわらげるものです。
- 抗うつ剤などでの治療
精神的な症状が重い場合やHRTの効果が薄い場合は、抗うつ薬や抗不安薬などを用います。環境要因などによるストレスが強い人には、投薬と並行してカウンセリングを行うこともしばしばです。
更年期によく現れる症状を放置すると深刻な更年期障害になったり、重大な病気を見落としたりする恐れがあります。「更年期障害かもしれない」と感じたときは、すぐに婦人科へ相談しましょう。
まとめ
女性の更年期症状は、女性ホルモンの分泌量減少や自律神経の乱れなどによって起こります。更年期障害は、更年期症状が仕事や日常生活に支障が出るほど重症であり、かつ他の病気による症状ではない状態を指します。
更年期障害を乗り切るためには、症状に正しく対処することやストレスをためすぎないことが大切です。また、「もう年だから仕方ない」などと諦めて治療せずにいると重大な病気を見落としかねません。更年期障害が疑われる場合は、早めに医師へ相談することをおすすめします。