2022年4月以降、年金制度が変更されたことは知っていても具体的な内容は分からず、「今更人に聞けない」と考える人もいるでしょう。しかし、年金制度に関する正しい知識を持つことは、安心して老後を迎えるための必須事項の1つです。年金制度改定を自分ごととしてとらえ、概要を把握することで、明るい未来につなげましょう。
当記事では「年金制度改定とは何か」と、重要な改正ポイントを解説します。年金制度改定による主婦・シニア層の生活への影響も紹介するため、社会保障制度に関する知識不足で損したくない人は、ぜひ参考にしてください。
目次
1. 年金制度改定とは?
年金制度改定とは、2022年4月に施行された「年金改正法(年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律)」に従う年金制度の変更を意味します。年金改正法とは社会や経済の変化を年金制度に反映させて持続可能なシステムを構築するため、2020年5月に成立した法律です。
厚生労働省では年金制度改正法の意義・目的を、以下のように説明します。
(引用:厚生労働省「年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました」/https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00006.html)
年金制度改定の概要を把握した上で自分自身や家族の働き方を見直し、将来設計を行えば、老後に受け取るお金を増やすことも可能です。パートで働く主婦(主夫)やシニア世代は特に年金制度改定の影響が特に大きいため、正しい知識を持つことで、より幸せな未来につなげましょう。
2. 年金制度が改正された背景
現在の公的年金では、少なくとも5年に1回の頻度で持続可能性を確認し、安定的な運営が行われるように配慮する仕組みを導入しています。今回の年金制度改定の背景となった事象を以下で詳しく把握し、改正ポイントを正しく理解するための予備知識を得てください。
2-1. 少子高齢化に伴う現役世代の減少
2022年9月時点における日本の高齢者人口は627万人と、過去最多を記録しました。一方で15歳以上65歳未満の人口は1990年代後半から減少しています。厚生労働省は少子高齢化が今後さらに進行し、給付と負担のバランスが崩れることを懸念して、年金制度改定に踏み切りました。
(出典:総務省統計局「1.高齢者の人口」/https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1321.html)
(出典:厚生労働省「令和4年版厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保-|第1章社会保障を支える人材を取り巻く状況」/https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/21/dl/1-01.pdf)
2-2. 高齢者・女性における就労割合の増加
2021年時点における高齢者の就労割合は25.1%と、4人に1人は働いている状態です。同時点における60代後半の就労割合は10年連続で上昇しており、半数を超える人が働いています。
(出典:総務省統計局「2.高齢者の就業」/https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1322.html)
また、2021年時点における女性の就業者数は3,002万人と、2012年からの9年間で約340万人増加しました。同時点の女性就労割合は78.6%と、男性との差が縮まっています。
(出典:男女共同参画局「2-1図 女性就業者数の推移」/https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/html/zuhyo/zuhyo02-01.html)
(出典:男女共同参画局「2-2図 女性就業率の推移」/https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/html/zuhyo/zuhyo02-01.html)
厚生労働省では「今後さらに高齢者・女性を含む多くの人が、多様なスタイルで働くようになる」と見込んでいます。そのため、今回の年金制度改定により、多様なスタイルの働き方に対応できる仕組みづくりが行われました。
2-3. 現役世代に対する負担の増大
少子高齢化の進行が見込まれるにもかかわらず従来の年金制度を維持すれば、現役世代の社会保障費負担は増大します。現役世代の負担を軽減するためには高齢者・女性の労働意欲をさらに促し、社会保障費を平等に負担してもらう仕組みが必要です。
しかし、従来の年金制度には、短時間のみ働く女性が厚生年金の加入要件を満たせない・在職高齢者は年金の一部もしくは全部をできない可能性があるなどの課題がありました。これらの課題を放置すると高齢者・女性の労働意欲を低めるリスクがあったため、今回の年金制度改定では多様な働き方を認めて、社会保障費を負担してもらう仕組みが採用されています。
3. 【年金制度改正法】4つの改定ポイントを解説!
そもそも公的年金は生きていく上で発生するさまざまなリスクに社会全体で備えて、安心して生活できる環境を整備する役割を担うものです。今回の年金制度改定で特に重要なポイント4つを以下で詳しく把握して、年金に関する知識のアップデートを行いましょう。
3-1. (1)被用者保険の適用対象拡大
被用者保険とは、会社員や公務員など労働契約に基づいて働く人が加入する健康保険と厚生年金を意味します。今回の年金制度改定では短時間労働者を被用者保険の適用対象とすべき事業所の規模要件が下表の通り、段階的に引き下げられることになりました。
また、今回の年金制度改定では、短時間労働者に対する勤務期間要件も撤廃されています。さらに、強制適用の対象になる個人事業所の適用業種には、弁護士・税理士・社会保険労務士などの士業が追加されました。
(出典:厚生労働省「年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました」/https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00006.html)
(出典:厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方」/https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/000955316.pdf)
3-2. (2)在職老齢年金制度の見直し
従来の年金制度では60~64歳の人の場合、賃金と年金月額の合計が28万円を超えた時、年金の一部もしくは全部が支給停止されていました。今回の年金制度改定では支給停止の基準が47万円に緩和され、満額の年金を受け取るためのハードルが下がっています。
また、今回の年金制度改定により、60代後半で在職中の老齢厚生年金受給者に対する新制度「在職定時改定」が創設されました。在職定時改定とは、過去には退職などによって保険者の資格を喪失する間では変更されなかった老齢厚生年金額のルールを、年1回改定するルールへ変更することです。在職定時改定が創設されたことで、一部の人が60代後半に受け取る老齢厚生年金額は上がる可能性があります。
(出典:厚生労働省「年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました」/https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00006.html)
3-3. (3)年金受給開始年齢の選択肢拡大
従来の年金受給開始年齢は、60〜70歳の間で自由に選択する仕組みでした。今回の年金制度改定では上限が75歳に引き上げられ、選択肢が拡大しています。年金制度改定後に年金を繰上げ・繰下げ受給する場合の減額・増額率は、下表の通りです。
たとえば、改定後の年金制度で75歳まで年金受給開始年齢を遅らせた場合の年金月額は一生、84%増額された水準です。反対に60歳で受給開始する場合の年金月額は一生、30%減額されます。
(出典:厚生労働省「年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました」/https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00006.html)
3-4. (4)確定拠出年金の加入要件見直し
確定拠出年金とは、加入者自身や企業が拠出した掛け金を加入者自身で運用し、その結果に基づいて将来の給付額が決定される年金です。今回の年金制度改定では加入可能要件に関して、下表の変更が行われました。
※企業型DCは企業が掛け金を拠出する確定拠出年金、iDeCoは加入者自身が掛け金を拠出する確定拠出年金です。
また、企業型DC・iDeCoの受給開始年齢はいずれも5歳引き上げられ、2022年4月以降は60~75歳の間で選択できる仕組みに変更されました。
(出典:厚生労働省「年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました」/https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00006.html)
4. 年金制度改定による主婦・シニア層へのメリットは?
主婦層にとっての主なメリットは、短時間のパート・アルバイトでも健康保険と厚生年金に加入しやすくなったことです。厚生年金には老後の保障である「老齢年金」・障害を負った際の生活の糧になる「障害年金」・遺族の生活を保障する「遺族年金」と、3種類の保障が含まれます。厚生年金に新しく加入した主婦にも当然、3種類すべての保障が約束されて、より安心して生活できる環境が整うでしょう。
シニア層にとっての主なメリットは、以下3点です。
ただし、シニア層がより高齢になるまで働いて老後の経済基盤の充実を図る場合、社会保険料や税金の負担は重くなる可能性があります。「いつまで働くか」を検討する際には現在の家計状況と将来設計の両方を踏まえて、合理的な選択を行うことが必要でしょう。
まとめ
年金制度改定とは、少子高齢化に伴う現役世代の減少や社会保障費負担の増大を背景として施行された法律に従い、年金に関するルールの一部が変更されたことを指します。高齢者・女性の就労割合が増加したことも、年金制度改定を招いた事象の1つです。
年金制度改定によって主婦・シニア層を含むすべての人は、働き方や老後プランの選択肢が広がります。年金制度改定に関する正しい知識をもとに自分自身や家族の将来について今一度考えて、「何歳までどのようなスタイルで働き、豊かな老後を築くか」を見つめ直しましょう。