子どもの主な感染症として、「手足口病」という病気のことを見聞きしたことがある方も多いでしょう。病名から「手や足、口に症状が出る病気」と推測することはできるものの、具体的な症状は分からないという方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、手足口病の概要や流行しやすい季節をふまえて、手足口病の主な症状や起こり得る合併症、原因となるウイルスとその感染経路について解説します。手足口病の治療法や対処法、手足口病の行政的な扱いや感染を予防するための方法なども併せて確認し、手足口病の流行に備えましょう。
目次
1. 手足口病とは
手足口病とは、手や足、口の中などに水疱性の発疹が出るウイルス性感染症のことです。主に夏季に流行する感染症であり、毎年7月下旬ごろに流行のピークを迎えます。「ヘルパンギーナ」「咽頭結膜熱(プール熱)」とともに、三大夏風邪とも呼ばれることを押さえておきましょう。
手足口病の患者の多くは子どもであり、5歳未満の小さな子どもが約8割を占めています。ただし、子どもから大人に感染するケースもまれに見られるため、小さなお子さんを育てる方は特に注意しましょう。
手足口病の症状は比較的軽度であり、1週間程度で軽快するケースがほとんどです。一方、最近は日本を含む東アジア・東南アジアを中心に、重症化する割合が比較的高いと言われる種類のウイルスの流行も見られます。流行状況を把握した上で、対策を行う必要があるでしょう。
2. 手足口病の症状
手足口病では、3~6日の潜伏期間を経て、手のひらや足の裏・足の甲、口の中の粘膜などに、2~3mmほどの水疱性の発疹が現れます。手・足・口だけでなく、ひざやひじ、臀部(お尻)などにも出現する場合があることも押さえておきましょう。
手足口病は発熱を伴う場合も多く、発症した方の約3分の1に発熱が見られます。しかし、高熱になることはほとんどなく、高熱が出たとしても長く続くわけではありません。
手足口病の発症後、発熱は1~3日程度で治まり、水疱性の発疹は1週間程度でかさぶたをつくることなく消失します。なお、ウイルスの種類によっては、手足口病の快癒後1~2か月程度で一時的に手足の爪が脱落する(はがれる)場合があります。特別な対処をしなくても、すぐに新しい爪が生えるため、焦らず対応するようにしましょう。
2-1. 起こり得る合併症について
手足口病の症状は比較的軽度であり、予後も良好であることがほとんどですが、まれに中枢神経系の合併症を引き起こす場合があることに注意が必要です。手足口病の原因となるウイルスの1つ「エンテロウイルス71(EV71)」に感染した場合は特に可能性が高まるため、十分注意して経過を観察するようにしましょう。
【手足口病で起こり得る代表的な合併症】
●髄膜炎 ウイルスが脳を包む髄膜に感染し、炎症を起こす病気です。発熱や頭痛、嘔吐、下肢の痛みといった症状が見られますが、医療機関で適切な処置を受けることで、良好な経過をたどり、完全に回復することができます。 ●小脳失調症 ウイルスの感染により、運動機能や平衡・眼球運動の調節を行う小脳の働きに影響が出る病気です。「歩行がふらつく」「姿勢の維持が難しい」「うまく喋れない」「眼球が細かくゆれる」といった症状が現れます。1~2か月程度で自然回復するケースがほとんどですが、重症化した場合はステロイド療法などの治療を行います。 ●脳炎 ウイルスが脳に感染することで、さまざまな症状が出る病気です。発熱や頭痛、嘔吐などの症状が見られるケースが多く、意識がぼんやりしたりひきつけを起こしたりすることもあります。 ●ギラン・バレー症候群 ウイルスの感染後、1~2週間程度で手足の先がしびれたり、力を入れにくかったりする症状が見られる病気です。患者さんの約半数に脳神経障害が現れ、重症化すると、歩行の介助や人工呼吸器の装着が必要になる場合もあります。 ギラン・バレー症候群では、症状が現れてから数日~2週間で急速に症状が進み、2~4週間で症状のピークを迎えます。まれに重症化することがあるものの、特別な治療をしなくても徐々に改善し、約半年程度で回復するケースがほとんどです。 |
手足口病には合併症が見られるケースもあるものの、頻度はそれほど高くありません。手足の多くは軽症で済むため、過度に心配せず経過をよく観察し、必要に応じて医療機関を受診するようにしましょう。
3. 手足口病はどうやってうつる?主な原因・感染経路
手足口病はウイルス感染症であり、原因となるウイルスには下記のようなものがあります。原因ウイルスには複数の種類があるため、手足口病にかかったことがある方が、別の原因ウイルスによって手足口病を再度発症することも珍しくありません。
【手足口病の主な原因ウイルス】
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手足口病の主な感染経路には、「飛沫感染」「接触感染」「糞口感染」の3つがあります。
【手足口病の主な感染経路】
●飛沫感染 感染者の咳やくしゃみなどで飛散したウイルスを含む飛沫を、周囲の人々が口・鼻から吸い込むことで感染が成立する経路です。 ●接触感染 ウイルスが付着したもの(感染者の手や感染者が触ったもの)に触れた手で、口や鼻に触れることで感染が成立する経路です。 ●糞口感染 便の中に排出されたウイルスが、口に入ってしまうことで感染が成立する経路です。 |
子どもは保育園や幼稚園、学校といった場で集団生活を送るため、園児同士・児童同士の生活距離が近く、濃厚な接触が生じやすくなります。このような理由から、保育園や幼稚園、学校といった施設では、手足口病の集団感染が起こりやすいことを押さえておきましょう。
4. 手足口病の治療法・対処法
手足口病は比較的軽度な症状で済む場合が多く、発症後1週間程度で自然に治癒する病気です。特別な治療法・治療薬もないため、経過を観察しながら症状に応じた対症療法を行います。
【手足口病における主な対症療法】
症状 | 対症療法 |
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発熱 |
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発疹 |
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水分が十分にとれない |
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食事をとれない |
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対症療法を行ったにもかかわらず、症状が悪化した場合やなかなか軽快しない場合は、合併症を発症している可能性があります。経過をよく観察し、症状に変化が見られた場合はすぐに医療機関を受診するようにしましょう。
5. 手足口病の予防法
現段階では、手足口病の原因ウイルスに対する有効なワクチンはありません。手足口病を予防するためには、手洗いなど基本的な感染対策を行うことが大切です。手足口病は「5類感染症定点把握疾患」に定められており、流行状況が把握できる感染症であるため、流行状況を確認しながら対策を行いましょう。
家族が手足口病にかかった場合は、感染拡大を防ぐためにも、下記のようなポイントに注意しながら経過観察を行ってください。
【手足口病の感染を広げないためのポイント】
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なお、手足口病の場合、保育園や幼稚園、学校などへの出席停止といった措置は流行を防ぐための効果が低いと言われています。子ども本人の全身状態が良好で通常の食事がとれる場合は登園・登校するなど、本人の症状・状態によって判断することが大切です。
まとめ
手足口病は、手や足、口の中などに水疱性の発疹が現れるウイルス性の感染症です。発熱や発疹といった症状は比較的軽度であり、対症療法により1週間程度で治まるケースがほとんどですが、まれに重篤な合併症を発症する場合もあります。症状に変化が見られた場合は、医療機関を受診するようにしましょう。
手足口病には有効なワクチンがないため、流行状況を見ながら手洗いなどの基本的な感染対策を行います。手足口病にかかった場合は、感染を広げないようポイントを押さえた対応を心がけましょう。出席停止などの行政的な決まりはないため、回復後の登園・登校は本人の体調・状態に応じて判断することが大切です。