小さなお子さんを育てている方の中には、「おたふく風邪」という病気を見聞きしたことがある方も多いでしょう。おたふく風邪の感染者は小さな子どもが多いと言われていますが、おたふく風邪とは一体どのような病気であり、どのような症状が見られるのでしょうか。
当記事では、おたふく風邪の概要や主な原因・感染経路をふまえた上で、主な症状や起こり得る合併症について解説します。おたふく風邪に感染した場合の治療法や対処法、おたふく風邪を予防するための方法も併せて確認し、おたふく風邪に対する備えを整えましょう。
目次
1. そもそも「おたふく風邪」とは?
「おたふく風邪」とは、正式名称を「流行性耳下腺炎」とする感染症であり、耳下腺の炎症による腫れや発熱が認められる病気のことです。左右両側の耳下腺が腫れた場合は「おたふくさん」のような外見的特徴を示すことから、「おたふく風邪」と呼ばれるようになりました。
おたふく風邪の感染は、特に保育園や幼稚園などで集団生活を送り始める時期の子どもに多く見られます。感染しても軽症で済むケースがほとんどですが、重症化すると合併症を引き起こす可能性もあるため注意しましょう。
2. おたふく風邪の主な原因・感染経路
おたふく風邪はウイルス性の感染症であり、「ムンプスウイルス」に感染することで発症します。
ムンプスウイルスは、パラミクソウイルス科に属する大きさ100~600nmほどのRNAウイルスです。遺伝情報を持つRNAをエンベロープ(殻のような構造体)が包んでいるような構造をしており、エンベロープには2種類のタンパク質が存在します。この2種類のタンパク質を抗原としてつくられた抗体が、感染から人体を守ると言われています。
おたふく風邪の原因となるムンプスウイルスの主な感染経路には、「飛沫感染」と「接触感染」の2つがあります。
【飛沫感染・接触感染について】
●飛沫感染 感染者の咳やくしゃみ、会話などによって、ウイルスを含む飛沫が周囲に飛散し、これを周囲の人々が口や鼻から吸い込むことで感染します。飛散したウイルスが目から体内に侵入するケースもあることに注意しましょう。 ●接触感染 ウイルスが付着した手や、感染者が触ったものに接触した手で、口や鼻に触れることで感染が成立する経路です。感染者とのキスも接触感染に含まれます。 |
おたふく風邪は大人でもかかる場合もありますが、免疫力の低い子どものほうが感染リスクが高いと言われています。感染力が強く、保育園や幼稚園、学校といった集団生活の場で広がりやすいことも、子どもの感染者が多い理由の1つと言えるでしょう。
3. おたふく風邪の主な症状
ムンプスウイルスに感染しても、すぐにおたふく風邪の症状が出始めるわけではありません。感染から2~3週間程度の潜伏期間を経て、おたふく風邪の症状が現れ始めることを押さえておきましょう。
おたふく風邪の主な症状として、耳下腺や顎下腺、舌下腺といった唾液腺の腫れや発熱が挙げられます。時間差はあるものの、左右の両側が腫れるケースが多く見られます。口や喉の周りが腫れるため、飲食の際に痛みを感じることも珍しくありません。特に酸味のあるものや硬いものを飲み込む際は、痛みが強く出る傾向があります。
これらの症状は、発症後1~3日でピークを迎え、1~2週間程度で治まるケースがほとんどです。発症前日から3日後までの間は、特に周囲に感染させやすいことに注意しましょう。なお、感染しても明らかな症状が現れない「不顕性感染」の例も約30%あると言われています。不顕性感染の場合でも、周囲の人に感染させる恐れがあることに注意してください。
3-1. 起こり得る合併症について
おたふく風邪の主な症状は比較的軽症であるケースが多いものの、まれに深刻な合併症を引き起こす可能性もあります。おたふく風邪を発症している際に起こり得る代表的な合併症には、下記のような疾患が挙げられます。
【おたふく風邪で起こり得る主な合併症】
●無菌性髄膜炎 ムンプスウイルスが脳を包む髄膜に感染することで炎症が起こり、高熱や頭痛、嘔吐といった症状が続く病気です。高熱により、けいれんやせん妄が起こる場合もあるため注意しましょう。脱水症状を防ぐための点滴や、解熱剤・鎮痛薬の服用といった対症療法を受けることで、1~2週間ほどで軽快するケースがほとんどです。 ●睾丸炎 ムンプスウイルスの感染により、男性の睾丸(精巣)が腫れる病気です。おたふく風邪に感染した男性の約20~25%で発症するとされており、特に10歳未満の子どもで多く発症していると言われています。 ムンプスウイルスの感染による睾丸炎は、片方の精巣にのみ症状が出る場合もあれば、両方の精巣に出る場合もあります。なお、睾丸炎による男性ホルモンへの影響はほぼありません。しかし、両方の精巣に腫れ・痛みといった症状が出た場合や、睾丸炎が思春期以降に発生した場合には、精子形成の能力に影響を及ぼす可能性があることに留意しましょう。 ●卵巣炎 ムンプスウイルスの感染により、女性の子宮頚管や卵管・卵巣が炎症を起こし、場合によっては周囲の臓器との癒着や卵管の閉塞が起こる病気のことです。 不正出血や黄色の膿のようなおりものを伴うケースもあり、解熱後も月経痛や腹痛・腰痛などの症状が出現・悪化する恐れがあります。重症化した場合は、妊娠のしやすさにも影響が出る可能性もあることに注意してください。 ●急性膵炎 ムンプスウイルスに感染した方の約4%で発症すると言われる疾患であり、腹痛や背部痛、発熱、嘔吐といった症状が見られます。重篤化すると意識障害やショック状態となる可能性があることにも注意しましょう。 ●ムンプス難聴 感音性難聴ともよばれるムンプス難聴は、音の振動を受け取る蝸牛にムンプスウイルスが感染することで、聴力に影響が出る病気のことです。 ムンプス難聴を併発する頻度は、おたふく風邪感染者の1000人のうち1人(0.1%)であり、決して珍しい合併症ではありません。聴力の回復は非常に難しく、聴力の回復は非常に難しく、永続的な後遺症になり得ることを押さえておきましょう。 |
4. おたふく風邪の治療法・対処法
現段階では、おたふく風邪の原因となるムンプスウイルスに対する効果的な治療法・治療薬はありません。そのため、おたふく風邪にかかった場合は、症状に合わせた対症療法を行うことになります。
【おたふく風邪における主な対症療法】
症状 | 対症療法 |
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発熱・痛み |
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顔の腫れが気になる |
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水分が十分にとれない |
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痛みで食事をとれない |
(例:ポタージュスープ、ゼリー飲料など) |
おたふく風邪と診断された場合、上記のような対症療法を行いながら、自宅で安静に過ごすことが大切です。症状が悪化した場合や、なかなか軽快しない場合は、医療機関に相談するようにしましょう。
5. おたふく風邪の予防法
ムンプスウイルスの主な感染経路は、「飛沫感染」「接触感染」の2つです。日常的な手洗いや手指消毒、うがいといった基本的な感染予防もある程度効果がありますが、これだけではおたふく風邪を効果的に防ぐことはできません。
おたふく風邪の最も有効な予防法は、ムンプスワクチンを接種することです。ムンプスワクチンは1歳から接種できますが、任意の予防接種であることに注意しましょう。ムンプスウイルスに対する免疫を十分につけるためにも、1回目の数年後に2回目の接種を受けることをおすすめします。
なお、学校保健安全法および施行規則では、おたふく風邪は第二種感染症に指定されています。耳下腺などの腫れが現れてから5日が経過し、全身状態が良好になるまでは、保育園や幼稚園、学校は出席停止となることに注意してください。
まとめ
おたふく風邪とは、ムンプスウイルスの感染により、耳下腺などの唾液腺が腫れ、発熱などの症状を示す病気です。免疫力や抵抗力が十分に発達していない子どもが感染するケースが多く、特に保育園や学校などでの集団生活で感染が広がりやすいことに注意しましょう。
おたふく風邪の症状は比較的軽度ですが、保育園や学校などは出席停止となり、回復するまで出席することができません。また、重篤な合併症を引き起こすケースも少なくありません。ムンプスワクチンの接種や日頃の手洗い・うがいなどの対策を行い、おたふく風邪を効果的に予防しましょう。