脱水症は、一般的に汗をよくかく夏に警戒される症状ですが、実は冬でも起こり得ます。しかし、冬には意識が薄れる方も多い傾向にあるため、気付かないうちに脱水症状が生じ、自分で飲み物が飲めなくなるほど重度に進行してしまうケースもゼロではありません。
小さな子どもや高齢者は特にかくれ脱水が生じる危険性があるため、年間を通して気をつけておく必要があります。そこで今回は、冬の「かくれ脱水」について解説します。脱水症状のサインや予防、さらに治療法を紹介するため、冬の脱水症を未然に防ぐためにもぜひ参考にしてください。
目次
1. 冬でも水分不足によって「かくれ脱水」が起こる!
一般的に、脱水症は汗をかきやすい夏によく起こるイメージが強いですが、冬に脱水症状が起こることも多いです。
人間の身体は、飲食で水分を摂取し、汗や尿で不要な水分を排出するというサイクルで体内の水分量を適切に維持しています。しかし、水分の摂取量が少なかったり体外に排出される水分量が多かったりすると、身体が適切な水分量を保持できません。結果として、気付かないうちに脱水症状が起こる「かくれ脱水」となります。
かくれ脱水は、特に高齢者に多い傾向が強いです。理由は、体内水分量の少なさにあります。
一般的な成人の体内水分量は約60%ですが、65歳以上の高齢者は約50%です。成人と比べて体内水分が少ないため、意識的にかくれ脱水の予防を行う必要があります。
1-1. 冬に水分不足・かくれ脱水が起こる原因
夏より警戒心が薄れやすい冬の脱水症には、以下のような原因があります。
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冬に起こるかくれ脱水の大きな原因は「乾燥」です。
冬は湿度が低く、空気が乾燥しやすくなります。さらに、暖房を使うことでより乾燥が加速し、皮膚から水分が蒸発していくことも多いです。蒸発の様子は目に見えないため、身体が水分不足となっていても自覚しにくい傾向があります。
そして、冬は夏ほど汗をかかないため、のどの渇きも軽度です。水分をとる量が少なくなり、必然的に体内の水分量も少なくなります。
また、冬はウイルス性の感染症が流行する季節です。下痢や嘔吐といった症状があれば、体内の水分が体外に排出され、脱水症状を招きます。
これらの原因に加え、高齢者の場合は腎臓機能の低下や常用している薬の影響にも注意しなければなりません。腎臓は、体内の水分量を調整する部分です。しかし、加齢によって腎臓機能は低下していくため、体内の水分バランスが崩れ脱水症状を引き起こすおそれがあります。
このように、高齢者が常用している薬の副作用で水分不足となるケースは決して珍しくありません。特に、利用作用がある薬の常用は尿の排出が活発となり、体内から多くの塩分と水分が失われ脱水症状を起こす原因となります。
2. かくれ脱水を放置するリスク
脱水症の初期段階である「かくれ脱水」には、自分で気付けない方も多くいます。しかし、そのまま放置していると脱水症へと進行するリスクが高まるため注意が必要です。
そもそも脱水症とは、体内の水分不足によってあらゆる不調を招くことを指します。そして、脱水症状は脳、消化器、筋肉の3か所で起こりやすく、主に下記のような症状が発生します。
脳 |
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消化器 |
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筋肉 |
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上記はかくれ脱水で起こり得る症状で、「気のせい」「疲れがたまっただけ」などと軽視されやすいものが多い印象です。しかし、重度となれば脳梗塞や心筋梗塞の引き金になる可能性もあります。
3. 冬の脱水症状のサイン
以下のような症状は、身体が水分不足を訴えているサインです。かくれ脱水を見逃さないためにも、下記のポイントは十分に理解しておきましょう。
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のどの渇きや皮膚のカサつきは、乾燥を自覚しやすいでしょう。
しかし、手足の冷えは「冬の寒さによるもの」、ふらつきは「貧血」など別の原因と勘違いされやすい症状もあります。さらに、尿の色に関しては気にも留めない方も多いでしょう。これらも脱水症へとつながる重要な症状のため、軽く見ずきちんと対策を講じることが大切です。
特に、高齢者の場合はふらつき症状で転んで骨折をする危険もあるため注意が必要です。
4. 冬の脱水症状の予防方法
夏と比べ、冬は汗をかきにくいことから脱水症状予防を意識的に行っている方が少ない傾向にあります。気付かないうちに症状が進行してしまうおそれもあるため、日頃から次のような予防を心がけることが大切です。
●加湿器で室内の湿度を上げる 冬は乾燥によって室内の湿度が下がるため、加湿器を使って適度な湿度に保つ必要があります。湿度の目安は、およそ50~60%程度が最適です。加湿器の他に、洗濯物を部屋干ししたり水を入れたコップを部屋に置いたりするのも乾燥予防に効果があります。 ●小まめに水分補給をする のどの渇きを実感していなくても、意識的に水分補給を心がけましょう。一度にたくさんの水分をとろうとするのではなく、小まめに水分を補給し身体が水分不足にならないようにすることが大切です。また、脱水を実感しているときはナトリウム、カリウムなどの電解質を含んだ経口補水液の摂取が有効となります。 ●肌からの水分蒸発を防ぐ 体内水分は皮膚からも蒸発していきます。保湿クリームで肌を保湿したり、露出度が低い服を着たりなどで肌から水分が逃げていくのを防ぎましょう。 ●体温調節をする 厚着をしてしまうと、汗をかいて身体が冷えたり脱水したりします。部屋が暖かければ防寒を緩めたり、子どもがたくさん遊んだ後は着替えさせてあげたりなど、適切な体温調節を意識しましょう。 |
5. 【症状の度合い別】脱水症状の治療方法
脱水症状が出た場合は適切な対処を行う必要があり、対処法・治療法は脱水症状の程度によっても異なります。「軽度~中度」「重度」における脱水症状の主な治療法は、下記の通りです。
軽度~中度 | 水分補給をする |
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重度 | 点滴で水分を補給する |
症状が比較的軽く自分で飲み物が飲める場合は、経口摂取による水分補給を行います。飲み物として適切なのは、麦茶や電解質を含んだスポーツドリンクです。
糖分が多いジュースや利尿作用のあるアルコール、コーヒーはかえってのどが渇いてしまうおそれがあります。水分補給の役割を十分に果たせないため、嗜好性の高い飲み物は避けましょう。
なお、経口補水液は市販のスポーツドリンクを買うだけでなく手作りで用意することもできます。基本的な作り方は、下記の通りです。
【必要な材料】
【作り方】 材料をよく混ぜる。 |
もしも自分で飲めないほど重度の脱水症状が起きてしまった場合は、点滴で水分補給を行います。経口摂取による水分補給で改善しない場合も点滴をしてもらいましょう。
まとめ
冬は、気がつかないうちに身体が水分不足に陥る「かくれ脱水」になるリスクが高い季節です。「冬は乾燥するから、手がカサカサになるのは自然なこと」「身体がだるいけど、寝れば治るだろう」と症状を見過ごしていると、脱水症へと進行してしまうおそれがあります。
特に高齢者の場合はかくれ脱水が起こりやすく、ふらつきをはじめとした脱水症状によって転倒や骨折などの二次被害につながりかねません。暑い夏はもちろん、乾燥する冬でも脱水症にならないよう適切に予防しておくこと・万が一脱水症状が見られた際はすぐに適切な対処をとることも覚えておきましょう。