近年はアルツハイマー病の研究が進んでおり、治療薬もいくつか登場するようになりました。中でも、特に注目を集めているものが新薬の「レカネマブ」です。
アルツハイマー病の家族がいたり、自分が罹患することへの不安があったりなどで、レカネマブの有効性や副作用などが気になる方は多いのではないでしょうか。
今回は、アルツハイマー病の新薬である「レカネマブ」が承認された経緯と、レカネマブの主な作用や投薬方法などを分かりやすく説明します。
目次
1.【2023年9月】アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」が正式承認
4.まだ承認されていないレカネマブ以外のアルツハイマー病治療薬
1.【2023年9月】アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」が正式承認
2023年9月25日、アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」が日本で正式承認されました。
レカネマブは、大手製薬会社である日本の「エーザイ株式会社」とアメリカの「バイオジェン」が共同開発した、アルツハイマー病の新しい治療薬です。レカネマブという名前は薬の有効成分を指す一般名であり、販売時の製品名は「レケンビ」となります。
レカネマブの承認申請は、まず2022年7月にアメリカの食品医薬品局(FDA)に対して行われました。2023年1月にはFDAの迅速承認を取得し、アメリカ国内での販売が開始されています。2023年7月にFDAのフル承認も取得している状況です。
日本においては、2023年1月に厚生労働省所管の医薬品医療機器総合機構(PMDA)に承認申請を行い、2023年9月に正式承認を取得しています。
(出典:エーザイ株式会社「抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体「レカネマブ」について、1,795人の早期アルツハイマー病当事者様を対象としたグローバル大規模臨床第Ⅲ相CLARITY AD検証試験において、統計学的に高度に有意な臨床症状の悪化抑制を示し、主要評価項目を達成」/https://www.eisai.co.jp/news/2022/news202271.html)
(出典:エーザイ株式会社「抗アミロイドβプロトフィブリル抗体「レカネマブ」について、早期アルツハイマー病に係る新薬承認申請がカナダ保健省により受理」/https://www.eisai.co.jp/news/2023/news202334.html)
(出典:エーザイ株式会社「「レケンビ®点滴静注」(一般名:レカネマブ)について、日本においてアルツハイマー病治療薬として製造販売承認を取得」/https://www.eisai.co.jp/news/2023/news202359.html)
2.レカネマブの主な作用・投薬方法・販売価格を解説!
レカネマブは、アルツハイマー病の原因となる物質を除去し、アルツハイマー病の進行を遅らせるという今までにない働きをする新薬であることから、注目度が高まっています。
レカネマブは2023年12月末時点で、すでに日本国内で販売開始されている薬です。以下ではレカネマブの有効性・副作用や従来薬との違い、日本での販売価格などを解説します。
2-1.有効性
レカネマブは、アルツハイマー病患者の脳内に蓄積して神経細胞を破壊するとされる「脳内アミロイドβ」の除去を目的とした薬です。脳内アミロイドβが患者の脳内から除去されることにより、アルツハイマー病の進行を遅らせる効果が期待できます。
レカネマブが脳内アミロイドβを除去できる理由は、レカネマブが脳内アミロイドβと結合する抗体の一種であるためです。
抗体とは、体外から異物が入ってきたときに作られ、異物を認識して除去する働きがあるタンパク質のことです。レカネマブと結合した脳内アミロイドβは患者の脳内に蓄積できなくなり、神経細胞の破壊を防げると考えられています。
(出典:厚生労働省「中央社会保険医療協議会 総会(第 564 回) 議事次第」/https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001174133.pdf)
2-2.副作用
レカネマブの副作用としては、下記の事象が挙げられます。
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「脳の浮腫や出血」「脳の微小出血や脳表ヘモジデリン沈着」といった副作用は、使用開始から数か月以内で現れる可能性があります。基本的に自覚できる症状ではなく、時間経過で回復が見られる副作用です。
ただし、まれに生命を脅かす重篤な副作用を引き起こすケースもあります。
(出典:厚生労働省「レカネマブ(レケンビⓇ点滴静注)について」/https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000089508_00005.html)
2-3.従来薬との違い
2023年12月時点で日本の厚生労働省により承認されているアルツハイマー病の治療薬は、レカネマブ以外にも下記の5種類があります。
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いずれも患者の脳内に残っている神経細胞をできるだけ長く働けるようにして、アルツハイマー病の進行を遅らせる仕組みです。
対してレカネマブは、アルツハイマー病の原因とされる脳内アミロイドβを除去することにより、アルツハイマー病の進行を遅らせます。このようにレカネマブは、従来薬とは成分の働き方や効果が異なる点が特徴です。
(出典:厚生労働省「中央社会保険医療協議会 総会(第 564 回) 議事次第」/https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001174133.pdf)
2-4.投薬方法
レカネマブの投薬は、軽度認知障害(MCI)もしくは軽度認知症と診断された中でもアルツハイマー病が疑われる患者に対して、2週間に1回の点滴投与で行われます。1回の点滴投与にかかる時間は、約1時間です。
レカネマブの投薬開始後は、定期的に投薬の有効性および安全性の評価を行いながら、投薬の継続もしくは中止が判断されます。
なお、レカネマブの使用期間は原則18か月です。
(出典:厚生労働省「2)レカネマブ(レケンビⓇ点滴静注)について」/https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000089508_00005.html)
(出典:厚生労働省「最適使用推進ガイドライン レカネマブ(遺伝子組換え)」/https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001178607.pdf)
2-5.日本での販売時期
2023年12月20日、レカネマブの製品として「レケンビ点滴静注200mg」「レケンビ点滴静注500mg」の2種類が販売されました。
通常、治療薬が承認されてから販売される(実際の医療現場で使用できる)までには60~90日がかかります。治療薬の販売には、公的医療保険の適用対象とするための各種手続きが必要であるためです。
また、レカネマブは市場規模が極めて大きくなる可能性があり、「レケンビの薬価設定ルール」が固められるなど、販売開始前の議論は長期にわたり続きました。
結果として、特例的な価格調整範囲が適用されることで決定し、2023年9月25日の正式承認から約3か月後の12月20日にレカネマブは発売開始されています。
(出典:厚生労働省「中央社会保険医療協議会 総会(第 572 回) 議事次第」/https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001179942.pdf)
(出典:厚生労働省「新医薬品一覧表(令和5年12月20日収載予定)」/https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001178092.pdf)
(出典:厚生労働省「レケンビに対する費用対効果評価について」/https://www.mhlw.go.jp/content/001179940.pdf)
2-6.日本での販売価格
レカネマブは遺伝子組み換え技術を用いた抗体医薬であり、製造コストは非常に高額です。エーザイ株式会社によると、アメリカでの販売価格は患者1人あたり年間約2万6,500ドル(1ドル142円の場合で約380万円)となっています。
レカネマブの日本における薬価は、発売開始より7日前の2023年12月13日に決定しました。
2種類の商品について、日本での販売価格は下記の通りです。
レケンビ点滴静注200mg | 4万5,777円 |
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レケンビ点滴静注500mg | 11万4,443円 |
(出典:エーザイ株式会社「「レケンビ®点滴静注」(一般名:レカネマブ)日本においてアルツハイマー病治療剤として12月20日に新発売」/https://www.eisai.co.jp/news/2023/news202374.html)
患者1人あたりの年間費用は約298万円であり、予想通り高額であると言えるでしょう。
ただし、高額療養費制度を利用した場合は、70歳以上の一般所得層であれば年間14万4,000円が上限となります。
3.そもそもアルツハイマー病とは?
そもそもアルツハイマー病とは、記憶や判断・思考能力などがゆっくりと障害される、進行性の脳の病気です。認知症の原因疾患の1つとしても知られています。
アルツハイマー病の患者は高齢者が多いものの、若ければアルツハイマー病にならないとは限りません。10~30代の若年層であってもアルツハイマー病を発症する可能性があり、若年層のアルツハイマー病は「若年性アルツハイマー病(若年性認知症)」とも呼ばれます。
3-1.アルツハイマー病の主な症状と治療法
アルツハイマー病の症状は、大きく分けて「中核症状」と「周辺症状」の2種類があります。
脳の神経細胞が破壊されることで生じる症状です。 最近の出来事が覚えられなくなる記憶障害や、現在の日時・居場所が分からなくなる見当識障害、順序立てて作業ができなくなる遂行機能障害などの症状が現れます。
本人の行動や心理状態に関連して生じる症状です。 徘徊やうつ・躁状態、怒りやすくなったり、妄想や幻覚を抱いたりなどの症状が現れます。 |
アルツハイマー病の根本的な治療法は、未だ確立されていません。医療現場では、投薬などによって進行を遅らせる治療法が主に選択されています。
4.まだ承認されていないレカネマブ以外のアルツハイマー病治療薬
レカネマブはアメリカ・日本で承認された新薬であるものの、実はほかにもまだ欧州や日本でも承認されていないアルツハイマー病治療薬は存在します。
日本でまだ承認されていないアルツハイマー病治療薬を2つ紹介します。
- ドナネマブ
ドナネマブは、アメリカの大手製薬会社「イーライリリー」が開発したアルツハイマー病治療薬です。
ドナネマブは、アメリカにおいて2023年6月末までにFDAへの承認申請を完了しており、日本においても9月26日に厚生労働省への承認申請を行っています。
2023年12月22日時点ではどちらも正式承認を取得していないものの、アメリカでの承認申請については近いうちに判断が得られる見通しです。
- アデュカヌマブ
アデュカヌマブは、レカネマブと同様にエーザイ株式会社とバイオジェンが共同開発したアルツハイマー病治療薬です。
アデュカヌマブは、アメリカでは2021年にすでに条件付きでの承認を取得しました。
日本でも2022年に承認申請が行われたものの、認知機能の低下を抑制する十分なデータが示されなかったため、承認が見送られています。
まとめ
レカネマブは、脳内アミロイドβを除去することでアルツハイマー病の進行を遅らせる治療薬です。
アルツハイマー病の新薬であるレカネマブは、2023年12月20日に発売開始されました。患者1人あたりの年間費用は約298万円と高額であるものの、高額療養費制度の利用により医療費負担の軽減ができます。
アルツハイマー病はまだ解明途中の病気であり、根本的な治療法はまだありません。