妊娠すると少しずつ体調に変化があらわれます。妊娠時に見られる症状の多くは、次第に落ち着いたり出産後に消失したりするケースがほとんどです。
しかし、中には経過観察が必要となる合併症が起こることがあります。母体への影響はもちろん、赤ちゃんの発育にも影響するため、体調の変化には十分注意しましょう。
今回は、妊娠中に気を付けたい妊娠高血圧症候群(HDP)について詳しく解説します。具体的な症状や原因、治療方法にも触れるため、ぜひ参考にしてください。
目次
1.妊娠高血圧症候群(HDP)とは?
妊娠高血圧症候群とは、妊娠中に起こるおそれがある病気です。かつては「妊娠中毒症」という病名でした。現在は、妊娠中に起こり得る妊娠高血圧症・妊娠高血圧腎症・加重型妊娠高血圧腎症・高血圧合併症の総称として、妊娠高血圧症候群という病名が使われています。
英語では、「Hypertensive Disorders of Pregnancy」と表現します。Hypertensive(高血圧症)、Disorders(障害)、Pregnancy(妊娠)の頭文字をとって、「HDP」と呼ぶこともあります。
妊娠高血圧症候群は、妊娠前の血圧が適正値の人でも起こる可能性がある病気です。
ここからは、妊娠高血圧症候群の症状を分類ごとに詳しく解説します。
1-1.【1】妊娠高血圧
妊娠高血圧症とは、妊娠20週以降に高血圧の症状があらわれる病気です。産後12週までの間に高血圧の症状があらわれた場合も妊娠高血圧症と診断されます。
妊娠高血圧の目安となる血圧値は、下記の通りです。
収縮期血圧 | 140mmHg以上 |
---|---|
拡張期血圧 | 90mmHg以上 |
妊娠高血圧症は妊娠後期で発症する人が多く、妊婦健診で血圧の変化に気が付くケースがほとんどです。軽症であれば、産後12週を目安に改善に向かいます。
1-2.【2】妊娠高血圧腎症
妊娠高血圧腎症は、妊娠高血圧症の症状に加えて、たんぱく尿や腎機能障害などがみられる病気です。妊娠高血圧腎症にみられる主な症状は、下記の通りです。
|
妊娠高血圧症候群のガイドラインは、2018年に変更になりました。現在は、たんぱく尿が認められない場合でも、肝臓・腎臓の機能障害や神経障害などの症状があれば妊娠高血圧腎症と診断されます。
1-3.【3】加重型妊娠高血圧腎症
加重型妊娠高血圧腎症は、妊娠前や妊娠20週までに高血圧の状態にあり、妊娠20週以降に妊娠高血圧腎症の症状が認められる場合に診断される病気です。
妊娠前や妊娠20週までにたんぱく尿があらわれる腎疾患があり、妊娠20週以降に高血圧が発症した場合も、加重型妊娠高血圧腎症と診断されます。
1-4.【4】高血圧合併妊娠
高血圧合併妊娠は、妊娠前や妊娠20週までに高血圧の状態にあり、加重型高血圧腎症を発症していない場合に診断される病気です。高血圧の状態になったタイミングによって、妊娠高血圧症と高血圧合併妊娠を区別します。
高血圧の薬を処方されている場合は、妊娠中でも服用できる薬に変更する場合があります。医師の指示に従って体調管理を続けることで、妊娠継続も十分に可能です。
1-5.【その他】白衣高血圧
妊娠高血圧症候群には分類されないものの、妊娠中の血圧に関連する症状の1つに白衣高血圧があります。自宅では正常値でも、病院で測定すると血圧が高くなることが特徴です。
白衣高血圧は、緊張や自律神経の乱れが原因で起こると考えられています。白衣高血圧から妊娠高血圧症候群に移行するケースもあるため、血圧の変化には注意しながら生活しましょう。
2.妊娠高血圧症候群の症状
妊娠高血圧症候群の主な症状は、高血圧とたんぱく尿です。
ただし、稀に下記の症状があらわれることがあります。
|
妊娠高血圧症候群は基本的に自覚症状がなく、妊婦健診で初めて気が付く人がほとんどです。
妊娠高血圧症候群は、発症するタイミングで下記の2つに分類されます。
早発型 | 妊娠34週未満で発症 |
---|---|
遅発型 | 妊娠34週以降で発症 |
早発型は、遅発型に比べて重症化しやすいことが特徴です。収縮期血圧が160mmHg以上、もしくは拡張期血圧が110mmHg以上の場合は重症と判断されます。
症状が強く出ている場合は、すでに合併症を引き起こしている可能性があります。気になる症状があれば、早めに受診しましょう。
3.妊娠高血圧症候群が引き起こす合併症
妊娠高血圧症候群が引き起こす主な合併症は、以下の通りです。
●子癇(しかん) 妊娠中や分娩中、産後に意識消失とけいれん発作が起こる病気です。子癇の前触れとして、急激な尿蛋白増加・頭痛・目がチカチカするような眼症状などが起こる場合があります。 ●HELLP症候群 赤血球の破壊・肝機能の悪化・血小板の減少が起こる病気です。妊娠後期から産後にかけて発症しやすいことが特徴です。みぞおちの痛みや吐き気・嘔吐などの自覚症状を伴います。 ●脳出血 脳内にある細い血管が裂けて出血し、脳の働きにダメージを与える病気です。基本的に前触れとなる症状はなく、突然起こることが多いと言われています。 ●胎児発育不全 子宮や胎盤へ流れる血流が悪くなり、赤ちゃんに栄養や酸素が十分に行き渡らなくなります。赤ちゃんの発育が標準より遅れてしまうことが特徴です。 ●常位胎盤早期剥離 出産予定より早いタイミングで胎盤が剥がれてしまう状態です。母体の大量出血や赤ちゃんへの酸素不足などが起こる場合があります。 |
妊娠高血圧症候群の合併症は、母体だけでなく赤ちゃんにも深刻なダメージが及ぶ可能性があります。妊娠高血圧症候群のリスクがある人は、合併症にも注意が必要です。
4.妊娠高血圧症候群の原因
妊娠高血圧症候群の原因は、はっきりと解明されてはいないものの、さまざまな仮説が立てられています。
妊娠高血圧症候群は、妊娠中特有の病気であり産後は基本的に症状が軽快することが特徴です。そのため、妊娠の経過・胎児の成長に伴う体の変化に対する「母体の適応不全」が原因の1つと考えられています。
母体が対応できず何らかの理由で血管が傷み、血管を収縮させる物質が放出されると血圧が上がる可能性があります。うまく発達していない胎盤の血管に多くの血流を回すために、血圧が上がることも原因となり得るでしょう。
4-1.妊娠高血圧症候群になりやすい人の特徴
妊娠高血圧症候群の発症リスクが高い人には、いくつかの特徴があります。特徴に当てはまる人は、十分に注意しましょう。妊娠高血圧症候群になりやすい人の特徴は、下記の通りです。
|
肥満の人は、血管が体脂肪で圧迫されやすく高血圧になりやすい傾向にあります。妊娠中の急激な体重増加にも気を付けましょう。高血圧は遺伝する要素が大きいため、両親が高血圧の場合は要注意です。
5.妊娠高血圧症候群の治療方法
妊娠高血圧症候群を完治させる治療方法はありません。基本的には、対処療法で改善を目指すことになります。
妊娠高血圧症候群が軽症であれば、食事療法や生活習慣の見直しを行います。医師の指導に従って重症化を防ぎましょう。
症状が重症化している場合は、母体と赤ちゃんを守るために管理入院が必要です。必要に応じて降圧剤が処方されますが、赤ちゃんへの影響も考えて医師が慎重に判断します。
母体や赤ちゃんの状態によっては、帝王切開や促進分娩などで出産を早める場合もあります。
まとめ
妊娠高血圧症候群は、妊娠中であれば誰でも起こる可能性がある病気です。妊娠20週以降に高血圧になった人や妊娠前からの高血圧が悪化した人は、妊娠高血圧症候群と診断されます。
HELLP症候群や胎児発育不全などの合併症を発症するリスクも高いため、なりやすい特徴に当てはまる人は特に注意が必要です。妊娠高血圧症候群には根本的な治療方法がなく、対処療法で改善を目指すことになります。
妊娠高血圧症候群を予防するには、睡眠や食事などの生活習慣を見直すことが大切です。